和歌・連歌の難読語一覧(廣木一人)

和歌・連歌の難読語一覧(廣木一人)

廣木一人先生による、「難読語一覧」をPDFにて公開!

難訓語一覧 ←こちらをクリック

難読語一覧について
本一覧は、和歌・連歌で用いられる難訓語のよみを示したものである。和歌・連歌は仏教語などの特殊な例外を除いて原則的に漢語を訓読する。ところが、現行の漢和辞典類はその本来的な役割からしても訓の提示がきわめて少ない。また、難語・難訓語辞典類も和歌・連歌作品に関わるものについてはほとんど取り上げられていない。本一覧はこのような現状をかえりみて、和歌・連歌で用いられる漢字(漢熟語)のよみを示し、和歌・連歌読者の便宜を図ったものである。
便宜的に、『連歌大観 第三巻』(古典ライブラリー・2018年12月)および『西山宗因全集』一、二、六(八木書店・2004年9月、2007年8月、2017年4月)収録の連歌作品(『西山三籟集』『宗因発句帳』は『連歌大観 第三巻』にも収録)から抽出した。理由としては、難訓語は近世連歌作品に頻出し、上記の作品に出現する語を示せば、近世前の連歌および和歌でのものがかなりカバーできると考えられるからである。広く和歌・連歌を見ればこの数倍の難読語一覧が必要であろう。したがって、この一覧はより網羅的なものの第一歩と言える。ただ、厖大な一覧が使用に便利かというとそうでないこともある。コンパクトである利点もあろう。是非とも利用に供してほしい。
どのような漢字(漢熟語)を難訓語とするかは、判断に苦しむが、本一覧では、『広辞苑』の見出しに提示されていないものを主として、一般的によみにくいと思われるものを付け加えた。因みに『広辞苑』に関してはデータベース版が公刊されている。これによれば、漢字からの検索可能である。
本一覧では「よみ」についての典拠として、小学館刊『日本国語大辞典 第二版』によって古辞書のみを挙げた。ジャパンナレッジLibのデータベース版で検索可能である。各古辞書のテキストについては同書の凡例によってほしい。
他は、『温故知新書』(尊経閣善本影印集成25-1・八木書店・平成12年7月)、韻書である『平他字類抄』(『平他字類抄 本文と索引』笠間書院・1991年1月)、『新韻集』(古辞書研究資料叢刊4・大空社・1996年6月)、『和訓押韻』(古辞書研究資料叢刊5・大空社・1995年11月)、『押韻』(国語国文学術研究書シリーズ1・大空社・1998年3月)、『和語略韻』(古辞書研究資料叢刊24・大空社・1997年9月)、連歌辞書である『私用抄』(中世の文学「連歌論集三」・三弥井書店・1985年7月)、『詞林三知抄』(連歌資料集3・ゆまに書房・1977年9月)、『竹馬集』(『近世初期刊行連歌寄合書三種集成』清文堂・2005年12月)、『連歌文字撰』(大阪天満宮蔵)などで確認が取れるものがほとんどである。ただし、ここでは煩雑になるので提示していない。
「よみ」は活用する語である場合、名詞形として用いられているものも、僅かの例外を除いて終止形で示した。その場合、送りがなは省いた。実際の作品を読む場合はここでの「よみ」を活用させ、送りがなを付して利用してもらいたい。ここで示した以外の「よみ」があり得る場合もあるが、ただ、それは稀だと考えてよい。
冒頭で述べたように、本一覧は活字化されたものによる。漢字の「よみ」は写本・版本を対象とした場合、草書体、異体字などいくつかの段階で問題になるであろう。しかし、それは「崩し字辞典(草書辞典)」「異体字辞典」などで取り扱う事柄である。したがって、本一覧は草書体などを現行字体に置き換えた後の「よみ」の問題を扱っていると考えてほしい。
ただ、現行字体のみといっても、いわゆる異体字と呼ばれるものが極めて厄介な事柄として残る。現行文字にもそれは存在するからである。そもそも異体字については明確な定義がなされていないことも問題で、異体字辞典類には、さまざまな性格の字形が掲載されている。例えば、「峰」と「峯」は異体字とされる。点画が一つ多いもの、線に曲がりのあるものないもの、点画の長短等々、字形として相違するのかどうかが微妙な漢字が異体字とされることも多い。「崩し字」とも絡んで来て、単に「崩し字」としての省略などによる変形字なのか、根本的に字体が違うのかの判断に苦しむものもある。本一覧でこのようなものまで取り上げると際限がなくなる。
そこで、本一覧では、異体字とはあくまでも「同字」の変形で、原則的に音を同じにする同じ字と考え、このようなもの(「峰」と「峯」など)は通行字形のみを採択することとした。つまり、この定義での異体字は本一覧には採択しなかったということである。これに対して、音の違うものは「別字」と考え、これは一覧に加えることとした。例えば、「巵」「觴」や、「杉」と国字「椙」などである。
和歌・連歌における「よみ」を考えた場合、物足りないとも言えるが、何を異体字または別字とし、どこまでを採択するかは、本一覧のようなものでは、多量なこともあり、改めて検討する必要があるであろう。その際には異体字の定義を再考することから始めなければならない。いずれにせよ、本一覧とは別に、和歌・連歌で多用される異体字・別字の一覧が待望される。
なお、異体字に関しては、東京文化財研究所のホームページの総合検索の検索用に示されている「異体字リスト」は、Unicodeにある漢字であればパソコン上で検索可能で、和歌・連歌に特化してものではなく、非掲載のものも多いが、さしあたっての一覧としては便利である。(廣木一人)